王子の狐火


岸村が王子村と名をかえたころのとおいとおいむかしから、狐がどこからともなくあつまってきて
王子いなり(稲荷)へぎょうれつ(行列)する、今でもふしぎふしぎなおはなし(話)です。


むかしむかしの大昔、うみべ(海辺)が荒川とまぎらっていたころ、

王子村の近くの古いふるーい大きな木のあたりに、 たくさんの狐火が見えました。

狐火は、とくにおおみそか(大晦日)のばん(晩)におおくあらわれ、それが王子いなりさまへむかうのでした。

村の人々はゆらゆらゆれるふしぎな色をした狐火がなんだかとてもおそれ多かったので、

だーれもそばまでたしかめに行くゆうき(勇気)のあるものはいませんでした。

そうしたあるときのこと、村人たちは、みなではなしあって、だいひょうを三人えらんで、

狐火のそばまで行って見てみようということになりました。

いちばん狐火のあらわれる、さむ(寒)いさむーい大みそかのばん(晩)のことでした。

村人のだいひょうたちが、か(枯)れ草をかぶってイキをこらして遠くで見ていると、

どこからともなく、人のようでもありケモノのようでもある声がささやくように聞こえてきました。

「三十三国ねがいをもって、おうじいなりにもうづべし」
「三十三国ねがいをもって、おうじいなりにもうづべし」

しずかに きいていると、おさえるような声が、いくえ(幾重)にもいくえにもかさなって、それはそれは たいそうな数の声であるとわかりました。

「三十三国ねがいをもって、おうじいなりにもうづべし」
「三十三国ねがいをもって、おうじいなりにもうづべし」

そしておどろくほどたくさんの狐火が集まってきて、大きな木のそばまで来ると、ふしぎふしぎ、

狐たちは身じたくをととのえたすがたに、つぎからつぎから変わっていくのでした。

すべての狐がしょうぞく(装束)をととのえた姿になったときのことです。

いっぴきの白い狐が前にあらわれて、ゆっくり王子いなり(稲荷)さまに向って歩みはじめると、

すべての狐たちも列をつくってしたがって行ったのです。

こだかい(小高い)おか(岡)にある、いなりさまへむかうみち(道)は、 ゆれる 狐火 で、いっぱいになりました。

この年の狐火はとくにいつもよりもおおくありました。

つぎの年、村むらは、それはそれはゆたかな実りと、 あらそい(争い)やわざわい(災い)の無い良い年となりました。

村むらの人びとは、はなしあって、王子いなりさまのかたわらに、
王子いなりさまをおまもりしていただくために、白狐のお宮をたて、
狐たちがへんしん(変身)したところの大きな木を装束(しょうぞく)の木と名づけ、
小さなおいなりさまをそこにおいてお守りすることにしたのでした。

狐たちがもっともっとあつまってくれて、村むらがゆたかな実りにめぐまれますように、とのねがいからです。

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いまも、おおみそかになると、狐火のぎょうれつ(行列)が見られるそうです。

新民話 = 語り・王子の小太郎 = @33koku



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東国三十三ケ国の狐が王子に集合



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